電源不要のPoE対応無線LANルーターとは

広いオフィス内、無線LANのAP(アクセスポイント)の設置場所に最適なのは天井となるケースが多いです。また、監視カメラであれば、フロアの中心に360度カメラを設置すれば、死角が狭くなり、監視効率は最も高くなるでしょう。しかし、そうした機器は当然、電源が必要であり、当初からコンセントの配置設計をしていないと、なかなか電源を確保できません。

特に、最近流行のシンクライアントをはじめとしたVDI(仮想デスクトップ)環境を無線LANで構築するケースでは、無線LAN APの設置場所を正しく配置設計しないと、つながりにくかったり、遅かったりしてストレスを感じて業務をすることになってしまいます。しかし、そもそも電源を確保できなければならず、その制約下では、柔軟な配置設計は無理があります。

そんなときに役立つのが、PoE対応の無線LANルーターです。価格も下がってきており、企業の導入事例も増えているようです。今回はそのPoE対応無線LANルーターについて見ていきます。

PoEとは

PoE(Power over Ehternet)とは、その言葉のとおり、LANケーブル(Ethernet)の上(over)で電源(Power)を供給する技術のことです。PoE対応機器であれば、電源ケーブルは不要となり、LANケーブルだけで配線できるようになります。無線APやネットワークカメラのように、天井などの電源コンセントがない場所に設置する場合、配線が柔軟で100mまで施設できるPoEはとても便利です。設置台数が多くなるIP電話機への給電にもよく使われます。

仕組みは意外と単純です。LANケーブルのRJ45コネクタには8本の結線がありますが、通信で利用されていない結線(4、5、7、8番)を使用して電源を供給します。これが主流の「TypeB」という方式です。一方、通信で利用している結線(1、2、3、6番)を使用して電源を供給するやり方を「TypeA」と言います。データと電源を同じ結線上に流しても、混線したり、雑音が入るなどのデメリットはありません。

PoEを利用するメリット

PoEを利用するメリットとして以下のようなものが挙げられます。

コンセントがない場所でも電力を供給できる

前述のとおり、コンセントがない場所や、コンセントを設置しづらい場所でも電力を供給できます。コンセントの増設工事は高額ですし、手間もかかります。PoEに対応した機器を導入するだけで、その問題を解決できるというメリットは大きいです。

オフィスの配線がすっきりする

オフィスの配線問題は深刻です。一番初めに業者にやってもらった状態はすっきりきれいになってますが、後から追加した機器が次々増えて、いつの間にか、ぐちゃぐちゃになっていることはめずらしくないかと思います。火災の火種にもなるのでその状態は非常に危険です。本来だと、電力を供給するのに、電源ケーブルとACアダプタが必要となりますが、PoEではLANケーブルだけなので配線に悩まされることはありません。

PoEの構成

PoEによる具体的な給電の構成について見ていきます。PoEは給電側の機器(PSE)と受電側の機器(PD)によって構成されます。

給電機器(PSE)

PSE(Power Sourcing Equipment)といい、電力を供給する側の機器のことです。給電機器にはPoEスイッチングハブやPoEインジェクターなどがあります。

受電機器(PD)

PD(Powered Device)といい、給電を受けコンセントなしで動作する機器のことです。無線LANルーターやAPが該当します。

PoE対応のスイッチングハブなどのPSEは、機器が接続されると、PoEに対応している機器かどうかチェックします。これにより、同一のネットワーク内にPoE対応機器と非対応機器が混在させることが可能です。各イーサネットポートに最大15.4Wの供給が可能なIEEE802.3af、最大30Wの電力供給が可能なIEEE802.3atという2つの規格があります。IEEE802.3atは「PoE+」とも言います。

PoEで使えるLANケーブルは

LANケーブルには通信速度を表す「カテゴリ」と呼ばれる規格があります。現在では「カテゴリ5、5e、6、6a、6e、7」の6種類があります。
「カテゴリ 5」や「CAT 5」などのように表記され、数字が大きくなるほど通信速度が速くなります。反面、ケーブルの価格が高額になります。
アルファベットについては「どこが規格・承認しているのか」という意味合いがあります。アルファベットがついているものの方がついていないもよりも性能が良いとおさえておきましょう。

PoEにはLANケーブルの「カテゴリ5e」以上のケーブルが必要です。

PoEの今後に関する考察

コンセントからつながる電力線をネットワークの通信回線として利用するコンセントLAN(PLC:Power Line Communication)という技術があります。LAN接続が困難だった環境でも使用できるという点がメリットとなる技術でしたが、電力線にのせて通信を行うという特性上、ノイズが発生しやすく、速度も安定しないため、ほとんど普及することはありませんでした。

PoEはPLCの逆で、LANケーブルを通して電源を供給する技術です。PoE市場は北米を中心に近年急激に成長しているというデータがあります。そのためか、PoE対応機器の価格も近年驚くほど安くなっています。PoE対応のスイッチングハブ(PSE)は数千円で買えてしまいます。防犯カメラや照明、LEDなど、家庭用のPoEデバイスもAmazonなどで売られています。

ただ、LANケーブルという物理線を引かないといけないのは変わりません。そして最近のスマホには、「電気を無線で飛ばす技術」であるワイヤレス電力伝送(WPT:Wireless Power Transfrer)機能が搭載されています。ワイヤレスで電力供給できるのであれば、PoEは必要なくなってしまいます。

通信の世界でワイヤレスが主流となったように、電気の世界でもワイヤレスが主流となる時代がすぐそこまで迫っているようです。LANに接続する機器が増えている現状、これから脚光を浴びるかというところでしたが、PoEもPLCと同じようにイマイチ普及せずに衰退してくのかもしれません。