自宅はもちろん、会社や学校などでも当たり前のように使われている「Wi-Fi」。飲食店や観光地にWi-Fiスポットがあれば、それを目当てに自然と人が集まってきます。
少し前まではスマホやパソコン、携帯ゲーム機などの用途で使われていましたが、スマートハウスやスマート家電、IoT機器の登場により、用途が格段に広がり、今や日常生活にも欠かせない存在となっています。また、高画質、高音質のインターネット動画やVRをはじめとする高速かつ大容量化した最新ゲームなど、高速、低遅延、多数同時接続を実現可能なWi-Fi環境へのニーズが高まっています。
そんな背景の中、2020年に登場したのが「Wi-Fi 6」です。今回はその「Wi-Fi 6」について調べていきます。
Wi-Fi 6とは
Wi-Fi 6とは2020年現在で最新のバージョンのWi-Fi規格のことです。
最近よく目にする「Wi-Fi 6」ですが、これまでのWi-Fiは「IEEE 802.11xx」といった表記であり、「Wi-Fi 5」や「Wi-Fi 4」とナンバリングのような表記では見かけたことはなかったのではないでしょうか。
Wi-Fi規格の正式名称は「IEEE 802.11○○」(○にはアルファベットが入る)となります。ただ、「IEEE・・・」という規格名称は知らないけど、「Wi-Fi」という用語は知っているという方は多いのではないかと思います。そこで、「Wi-Fi」規格の新旧をわかりやすくするために、Wi-Fiの第6世代(6番目のWi-Fi規格)である「IEEE 802.11ax」を「Wi-Fi 6」と呼ぶことになりました。
それに伴って、1つ前の「IEEE 802.11ac」を「Wi-Fi 5」、2つ前の「IEEE 802.11n」を「Wi-Fi 4」とも呼ばれるようになっています。一般の人にも受け入れられるよう覚えやすくしたということですね。
世代 | 名称 | 規格名 | 最大通信速度 | 周波数 |
---|---|---|---|---|
第6世代(2020年1月) | Wi-Fi 6 | IEEE 802.11ax | 9.6Gbps | 2.4GHz帯/5GHz帯 |
第5世代(2013年12月) | Wi-Fi 5 | IEEE 802.11ac | 6.9Gbps | 5GHz帯 |
第4世代(2009年9月) | Wi-Fi 4 | IEEE 802.11n | 600Mbps | 2.4GHz帯/5GHz帯 |
第3世代(2003年6月) | - | IEEE 802.11g | 54Mbps | 2.4GHz帯 |
第2世代(1999年9月) | - | IEEE 802.11a | 54Mbps | 5GHz帯 |
- | IEEE 802.11b | 11Mbps | 2.4GHz帯 | |
第1世代(1997年6月) | - | IEEE 802.11 | 2Mbps | 2.4GHz帯 |
Wi-Fi 6のメリット
Wi-Fi 6は1世代前のWi-Fi 5より最大通信速度が約1.4倍向上しています(理論値であり、実効速度ではありません)。
ただ、インターネットへの回線速度は光回線でもだいたい1Gbps程度であり、世界最速と謳っている「NURO光」でも現状2Gbpsなので、通信速度については、Wi-Fi 5の6.9Gbpsで十分とも言え、Wi-Fi 6の9.6Gbpsになったところであまりメリットを感じにくいです。
Wi-Fi 6に変えて最も実感できるメリットは、最大通信速度ではなく、混雑のしにくさにあると思います。
これまでに、自宅や会社で「Wi-Fiが遅い」「つながりにくい」と感じたことはないでしょうか。
最近では、テレビやエアコン、洗濯機といったスマート家電など、Wi-Fiにつなげる機器がどんどん増えています。またこれまでにも使っていたパソコンやスマホも、大容量コンテンツを扱うようになり、Wi-Fiを専有してしまうことも多くなっています。
Wi-Fiに同時につなぐ機器が増えると、その数だけ通信が混雑して、遅くなったり、つながりにくくなったりするというわけですね。
これまでのWi-Fiも混雑の影響を緩和する技術がありましたが、Wi-Fi 6では、「直交周波数分割多元接続(OFDMA)」及び「Spatial Reuse」という新技術と、機能拡張された「MU-MIMO」により、より多くの機器が同時にWi-Fiにつながっている状態でも、通信の順番待ちを抑制し、快適にWi-Fiが利用できるようになりました。
特に、人が混雑してたくさんの人が利用する公共のWi-Fiスポットでは、「遅すぎて使えない」と感じることが多かったかと思います。まだまだWi-Fi 6に対応したWi-Fiスポットは少ないですが、今後は、そういった公共のWi-Fiでも混雑しにくくなり、快適に使えるようになっていくと考えられます。
Wi-Fi 5に比べると、およそ4倍~10倍のスピードアップを実感できるとも言われています。
Wi-Fi 6を使用することで子機側のバッテリー消費を抑える
スマホやスマート家電などは、電力消費をいかに減らしバッテリを長持ちさせるかがポイントとなりますが、Wi-Fi 6では、子機側のバッテリー消費をさせる「TWT(Target Wake Time)」という機能が搭載され、子機側のバッテリーを長持ちさせることができます。
これまでのWi-Fiは子機がスリープモードになっているときも、親機から全子機に対して送信されるトリガーにより、スリープモードになっていた子機も起こされてしまうことがありました。TWTは、使用していない(スリープモード)子機にはWi-Fi通信を行わないようにすることで、Wi-Fi使用時における消費電力を抑えています。
2.4GHz帯と5GHz帯の両方を使用するWi-Fi 6
Wi-Fiで使用する周波数帯として、2.4GHz帯と5GHz帯の2つがあります。周波数帯にはそれぞれメリット・デメリットが存在し、使い分けるのが難しいものとなっていました。
2.4GHz帯の特徴
最も古くから利用されてきたのが2.4GHz帯です。通常、周波数が低い方が障害物に強く、電波が届く距離も長くなります。ただし、「チャネル」という電波の通り道が重なりあっているため、多くの機器を接続したときに、通信が遅くなったり不安定になったりしやすいという特徴があります。また、電子レンジなど他の家電が2.4GHz帯の電波を出しており、互いの電波が干渉しあって、通信品質を著しく低下してしまうこともあります。
5GHz帯の特徴
5GHz帯ではチャネルが重なり合うことがないため、複数の機器を接続していても不安定になりにくい特徴があります。また、複数のチャネルを同時に利用できるため、2.4GHz帯と比べて高速で通信することができます。ただし、5GHz帯は距離と障害物に弱いです。無線ルータからの距離が遠ければ遠いほど、通信速度の減少幅が大きくなります。また、壁などを何枚も隔てた部屋からでは、電波はかなり遮られてしまい、届かないことが多いです。
どちらがより通信速度を出せるのか、安定するのかは、各々の環境によって大きく異なってきます。Wi-Fi 6では、2.4GHz帯と5GHz帯の両方を処理できるので、互いの弱点を補い合うことができるようになっています。
Wi-Fi 6を使うには
Wi-Fi 6を使うには、親機(ルーターやアクセスポイント)、子機(端末)ともに「Wi-Fi 6」に対応している必要があります。親機だけ対応していても、子機側が対応していなければ「Wi-Fi 6」は使えません。
次にWi-Fiルータを買い換えるなら「Wi-Fi 6」に対応したものを選ぶと良いでしょう。「Wi-Fi 6」に対応した端末も続々発売されており、今後のWi-Fi機器で主流となることは確実です。
価格もお手頃で、ローエンド機種であれば、7,000円程度で購入できます。
「5G」と「Wi-Fi 6」の関係性
次世代の無線通信規格といえば、2020年に開始された高速モバイル通信規格である「5G」があります。「5G」も「Wi-Fi 6」と同様に、高速で大容量のデータ通信を実現するものですが、「Wi-Fi 6」と「5G」はそれぞれの弱点を補完し合うような関係性にあります。
「5G」は基地局を経由して広範囲の通信に使われるのに対し、「Wi-Fi 6」は戸建ての家の広さぐらいの範囲となり、「5G」と比べると範囲がものすごく限定されます。逆に料金は「5G」が高く、「Wi-Fi 6」は従来のインターネットプロバイダ料金で済み、定額で低料金となることがほとんどです。
例えば、オフィスやカフェといった一定のエリアにたくさんの人が集まって同時に通信を行う場合には「Wi-Fi 6」が活躍し、今後普及が予想されているドローンを利用した荷物の配送やARと併用したスポーツ観戦など、屋外・長距離の通信が必要な場合には「5G」が活躍します。
このように同じ無線通信規格でも「5G」と「Wi-Fi 6」を使い分けることで、それぞれの弱点を補いつつ、いつでも、どこででも高速で大容量のデータ通信が実現可能と言うわけです。これから先、「5G」と「Wi-Fi 6」は、IoTの普及やAIの活用など社会の高度化に欠かせないインフラとしてますます普及していくと考えられます。