在宅ワークをやってみて見えてきた問題点と今後について

新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、2度目の緊急事態宣言が発出されています。これを受け、対象地域の企業は「出勤者数の7割削減」への協力を要請されました。

私の勤めている会社もその対象であり、各部署ごとに在宅勤務率のデータが取られ、進んでいない部署に対しては、フォローが来るなど、取り組み強化が厳しくなっており、少なくとも週2回は在宅ワークとするように言われています。

身近な人にも聞いてみると、既に在宅勤務が定着しているところもあるようですが、2度目の緊急事態宣言をきっかけに一段と広がりをみせているようです。

今回は、システムエンジニアという職業において、実際に在宅ワークをやってみて見えてきた問題点と今後も在宅ワークが続くのかどうかについて考察していきます。

在宅ワーク、テレワーク、リモートワークの違い

今回もまず用語のおさらいからはじめます。昨年から飛び交い始めた「在宅ワーク(在宅勤務)」「テレワーク」「リモートワーク」という言葉ですが、それらの言葉の定義が曖昧で、いったい何が違うの疑問に思うことはないでしょうか。

在宅ワークとは文字通り「自宅で仕事をすること」です。一方、テレワークとは「Tele(離れた)」と「Work(仕事)」を掛け合わせた造語であり、「離れた場所で仕事をするための環境」を意味します。「離れた場所」は自宅も当然含まれるため、在宅ワークはテレワークの一種になります。リモートワークは、「リモート(遠隔)」で行う「Work(仕事)」という意味になり、テレワークと違いはありません。

まとめると、

  • 在宅ワークは自宅で仕事をすること。
  • テレワークは離れた場所で仕事をすること。在宅ワークも含まれる。
  • リモートワークもテレワークと同じ意味。

コンピューター分野では、「リモート」という言葉をよく使うので、「リモートワーク」という表現がIT業界などでよく使われているようですが、国が呼びかけているのは「テレワーク」なので、テレワークが一般的な用語と言えそうです。

在宅ワークの問題点

在宅ワークが始まった当初、「これで毎朝、満員電車に揺られて出勤しなくても良い」と、陰ながら喜んでいました。しかし、実際やってみると、自宅では、働くための環境が整っておらず、思いのほか作業がはかどりませんでした。

ワーク環境の悪化

例えば、机や椅子。机は狭いし高さがありすぎて、キーボードが打ちづらい。ディスプレイの位置が視線に合わず、首が疲れる。椅子は堅くて長時間座るのはつらい。空調もそうです。真冬はエアコン付けても寒いし、温度を上げて日中つけっぱなしにすると光熱費が跳ね上がる。

在宅ワークをやってみてまず思ったことは、職場というのは、働きやすい環境が整っているのだということです。無機質な机ですが、無駄がなく、広さもちょうどいい、椅子は柔らかくて長時間座っても問題ないですし、空調や照明も整っていて快適です。もう長いこと働いていますが、今更にながらに気が付きました。

運動不足の深刻化

在宅ワークとなると運動不足も深刻です。スマホに、歩くだけでポイントが貯まる、スギ薬局の「スギサポWark」というアプリを入れていますが、そのアプリで、会社へ出社した日の平均歩数を確認すると、8,000歩程度となっていました。それが在宅ワークした日だと、200歩程度、ひどい日は25歩となっていました。

どうでも良いかと思うかもしれませんが、これは案外深刻です。毎日自然とウォーキングという運動ができていたのに、それができなくなるとすぐに肥満気味になってしまいます。実際、在宅ワークに切り替えて太ったという人は多いようです。

仕事効率の低下

家の中には様々な誘惑が身近にあります。「ちょっと休憩」とスマホを手に取るといつの間にかものすごい時間が過ぎているなんてこともあるでしょう。

実際、1回目の緊急事態宣言発令中の昨年5月に「自宅での勤務で効率が下がった・やや下がった」という人の合計が66.2%にのぼったという調査結果も出ています(日本生産性本部 第1回「働く人の意識調査」)

問題の解決策

上記でいくつか問題を挙げましたが、結局のところどれも考え方、気の持ちようの問題であり、いくらでも解決策はでてきます。ワーク環境が悪いのであれば整えれば良いですし、運動不足なら早朝や夜に音楽聴きながら歩けば良いだけです。むしろ通勤時間がなくなって時間が有効に使えるようになります。

仕事効率の低下に関しては、これこそ気の持ちようです。今はリモート会議用のツールはたくさんあって、声が聞き取りにくいということもありません。iPhoneのFaceTimeを使えば、通話料もかかりませんし、Teamsなどで画面を共有しながら会議もできます。オフィスに従業員が集まり、コミュニケーションを取りながら業務を遂行するのと同じことができる仕組みは整っているということです。

「部下がちゃんと仕事しているのかわからない」という声も聞こえてきますが、その日の日報を書くようにすれば良いだけです。日報を書くのも確認するのもめんどくさいということであれば、今の世の中、日報アプリというものもあり、そのようなアプリを使えば、スマホで日報が読み書きできて、いつでもどこでもチームの状況を把握し、タイムリーに指示を出すことができるようになっています。

そのように効率的に業務内容を管理することができれば、むしろ、仕事をサボるなんてことはできなくなるでしょう。(ホントに余計なものを作ってくれたものです。)

社会の取り組み

緊急事態宣言が出たからやむを得ずテレワークをするようになった、というだけでなく、これらからの時代、社会がテレワークを推奨している傾向も見られます。

業務の大半がテレワークで行われるのであれば、会社側は光熱費や通勤費などの出費が抑えられます。新たな働き方に合わせて小さなオフィスに移転することで、オフィス賃料を大幅に削減することも可能です。その浮いた分を原資にして、在宅ワーク手当てという形で社員に還元している会社も多くなっているようです。

中小企業や自営業者がITツール導入のための「IT導入補助金2020」という補助金制度もあります。新型コロナウイルス感染症の経済的影響を緩和するため、従来の通常枠に加え、特別枠も設けられました。この公募は既に終わってしまったようですが、こういった制度をいち早く活用した企業はテレワーク環境を整えやすかったようです。

働く我々も、在宅ワークにこだわる必要もありません。最近はカフェやファミレスでパソコンを出して仕事をしている人をよく見かけますが、これもテレワークと言えます。
ただ、もともとそのような店は、テレワークをする場所ではないため、長時間滞在などが迷惑行為にあたり、中には禁止しているところもあるようです。そこで最近出てきたのは、コワーキングスペースです。テレワークをするための店で、Wi-Fiや電源、モニター等の備品も整備されており、フリードリンク付きの格安料金で利用できます。私も一度利用しましたが、快適でかなり集中できました。
そういった施設は今度も増えていくと考えられます。国からの支援を後ろ盾に社会全体でテレワークを促進していく動きが加速しているように見えます。

セキュリティに対する問題

ここまでの記事内容では私も在宅ワーク、テレワーク推奨派に思われるかもれません。しかし、私はその働き方について、システムエンジニアという職種に関しては、導入が難しいように感じています。

システム開発を行っていく上で、大なり小なり機密データを扱うわけですが、そのデータ漏えいを防ぐため、社員に対してセキュリティやコンプライアンス教育を行い、セキュリティ対策ソフトやオフィスへの入退出管理システムなど多額の費用をかけてデータ漏えいリスクを減らしているわけです。

しかし、在宅ワークはそれらのリスク対策に逆行することになってしまうということは言うまでもありません。在宅ワーク云々に関係なく、元々、データ漏えいリスクというものは企業にとっての命題でした。最近でも、退職した社員が退職直前に機密データを持ち出し、転職先に持ち込んだとか、プログラムのソースコードをネット上に無許可で公開していたといったニュースが相次ぎましたが、表沙汰になっていないなけで、このようなことを結構あるのかもしれません。

セキュリティの考え方として「不正のトライアングル」という理論が有名です。不正行動は「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」の3要素がすべて揃った場合に発生するという理論です。

在宅ワークにすることで、そのうちの「機会」への対策が非常に困難になります。「機会」とは不正を行おうと思えばいつでもできるような環境のことです。例えば、「悪質可能なシステムの不備が存在する」、「チェックする人がいない」「やってもばれない」という職場環境が該当します。PCへのUSBメモリー接続を制限したり、外部に送信したメールの履歴を残すなど、何かしらの対策をしたとしても、アナログ的な手法(ディスプレイに映した内容をカメラで撮ったり、メモに書き写すなど)は防ぎようがありません。

そういった事件あると、巡り巡って、結局は自分たちの会社にもルール厳罰化がなされ、在宅ワークや持ち帰り仕事に甚大なる影響が出てきます。結果、会社としては効率を落としてでも漏えいは避けようとする選択肢を選ぶことになるでしょう。

そうやって働き方の効率が落ちていく、落としていくのは必然なのかもしれません。